· CrossPath Works · Procurement Lab  · 12 min read

調達にAIエージェントを「載せる前」に作った土台の話

生データをそのままAIに渡すと答えがブレる。だからAIを載せる前に、可視化ボードとPythonの決定論的な土台を先に作った——その順序がなぜ効くのか、一人称の実装記。

生データをそのままAIに渡すと答えがブレる。だからAIを載せる前に、可視化ボードとPythonの決定論的な土台を先に作った——その順序がなぜ効くのか、一人称の実装記。

SAP のような立派な調達システムを入れても、多くの現場では、バイヤーが結局データを表計算ソフトに落として、自分で再集計して、なんとか可視化して分析している。ツールが悪いというより、自社の実務に合わせてカスタマイズしないと使えない——そこに手が回らないだけだ。

だから「調達に生成 AI を」と言われて一人でシステムを作りはじめたとき、私が最初にやったのは AI を入れないことだった。生のデータをそのまま賢い AI に渡して「いい感じにして」と頼むと、答えが毎回ブレる。この記事は、AI エージェントを載せるに何を作ったか、そしてなぜその順序が効くのかという話です。

生データを AI に丸投げしなかった理由

発注データ(PO)やサプライヤーのデータベースを、そのまま大規模言語モデルに渡して「このサプライヤー構成を分析して」「次はどこに RFQ を出すべき?」と聞くことはできる。実際すぐ動く。ただ、同じ問いを投げても認識のしかたが毎回変わり、答えに幅が出る。雑談なら幅は個性だが、調達の意思決定でブレは致命的だ。「どこに集約するか」「誰に見積もりを出すか」の答えが日によって揺れるツールは、現場では使えない。

だから先に「決定論的な土台」を作った

そこで順番を逆にした。AI を最後に回し、まず可視化ボードと、その裏側の Python の計算コードを整備した。計算式で決まる部分は計算式に固定する。ここが「決定論的な土台」で、同じ入力なら必ず同じ答えを返す。作ったのは第一段階として次の3つ。

  • PO 分析:発注実績から、サプライヤーが寡占に寄っているのか過多に散らばっているのかを可視化し、さらに所在地を地図に載せる。「どの地域の会社を、どれくらい使っているか」が一目でわかる。集約方針を考える材料になる。
  • 入力させない RFQ:見積もり依頼(RFQ)を、フォームにタイプさせるのではなく選んでいくだけで出せるようにした。マニュアルを読まなくても出せる形にする、というのがこだわりで、入力を減らすほど現場の実行率が上がる。
  • 進捗の自動催促:締め切りを超えたら自動でリマインドメールを送る。追いかける作業を人から外す。

実装の順序の対比。上段は生データを AI に丸投げして答えがブレる流れ。下段は決定論的な土台を作ってから AI を載せ、挙動が読めて安定する流れ。

「生データ→AI」ではなく「生データ→決定論の土台→自分で自動化→AI」の順にする。

なぜ「順序」が効くのか

自分の手で土台を使って自動化していく過程で、Python の計算コードがどんどん育つ。寡占度の出し方、地理の重ね方、RFQ の宛先候補の絞り方——これらが式として固まっていく。その固まった土台の上に AI エージェントを載せると、二つのことが起きる。

  • エージェントの挙動が読める。何を根拠に動いているかが、土台の計算で説明できる。
  • 出力のブレを土台が吸収する。判断の芯は決定論のコードが担い、AI はその上で動く。

参考までに、年商 100 億円以上の企業の調達担当を対象にしたある調査(MonotaRO・2025 年)では、約 7 割が調達業務で生成 AI を使えていないという結果が出ている。関心は高いのに実装が進まない。だからこそ「何を、どの順序で作るか」の一人称の話に意味があると思っている。

支出をカテゴリ別のタイルで示し、各タイルをサプライヤー数リスクで色分けした可視化ボード。赤は1社以下、緑は2〜3社(適正)、黄は6社超。

支出をカテゴリで分け、色でサプライヤー数のリスクを出す(赤=1社依存/緑=適正/黄=過多)。「どこが1社に偏っているか」が一目でわかる。※ ダミーデータの実画面。

サプライヤー別支出のパレート分析。棒が支出額、折れ線が累積比率で、上位11社で支出の80%に達することを示す。

寡占度をパレートで見る。この例では上位11社で支出の80%。集約の余地と依存の偏りが同時に読める。※ ダミーデータの実画面。

発注先の所在地を日本地図に載せ、地域ごとの支出額をバブルの大きさと濃さで示した地図。

発注先の所在地を地図に載せる。どの地域の会社を、どれくらい使っているか。※ ダミーデータの実画面。

次に解きたい問題:「うちは正しいサプライヤーを使えているか?」

寡占や地理を見せる部分は、実務経験がある人なら難所ではない。私がいま本当に詰まっているのは、その先だ。「同じ業界にそもそも何社あって、自社は最適な相手を使えているのか」を調べる手段が、まだ抜けている。

ここを、公的データで埋めにいこうとしている。EDINET をはじめ、国が出しているデータを使えば、「日本に、どのコモディティで、どの地域に、何社あるか」という母集団を整備できる。それを自社の PO と自動でマッチングすれば、いま取引していない候補サプライヤーを洗い出すところまで持っていける。目指すのは、自社の調達に対する最適なサプライマップだ。

どこまでを AI にやらせるか、という線引き

ただし、ここには明確な境界を引いている。AI にやらせるのは「市場を知る」ところまで。候補を洗い出し、地図を描くのは AI の力で高度化できる。だが、その先——相手に接触し、実力や意欲を見極め、関係を築くのは人間の仕事だと思っている。ビジネスは単発の取引ではなく、継続的な関係だからだ。最初の一声くらいは AI が助けられるかもしれないが、握手をするのは人だ。

私が賭けている先 ― 間接材と「一人で 50 人分」

この土台づくりの延長に、少し大きな賭けがある。一人のバイヤーが、10 人分・50 人分の仕事を回せるようにすることだ。狙っているのは、特に間接材——マーケティングやプロモーションのようなメイン支出ではなく、もう少しコーポレート寄りで、カタログでは買えず、仕様書を出して見積もりを取り、発注を決めなければならない領域。カタログで買えるものはモノタロウや Amazon がすでにある。私が見ているのはその外側で、ここはベンチマークも状況の可視化も遅れていて、時間がない中で回されている。だからこそ高度化と AI エージェントの効きしろが大きい。

さらにその先には、間接材が BPO のように会社から切り離されていく流れがあると見ている(直接材は自社購買のままだとしても)。もしこの仕組みが複数の会社の間接材を薄く束ねられたら、取扱量は雪だるま式に増え、ボリュームを束ねた交渉も効き、関わる全員が得をする情報流通のハブになりうる。それを少人数で回す。——ここは大きな話なので、あらためて別の記事で書きます。まずは、その土台の一段目から。

同じように調達 × AI を触っている人や、「うちの調達はここが困っている」という声を、ぜひ聞いてみたい。


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